Hamilton ハミルトン

2020年が明け、既に1週間が過ぎました。皆様良い新年を迎えられたことでしょう。

今年はこんなことをするぞーと色々思われたことと思いますが三日坊主になっていませんように!新年の抱負は New Year’s Resolution といいますが、以前このことについては書きましたのでこちらをどうぞ。

私が住むオハイオでは暖かい日が続いていましたが、今日、8日は青空を背景に太陽の光がさんさんと降り注ぐ光景を窓から見るとあったかそうなのですが、実際に出るとかなり寒いです!

さて、冬休みの間に私はシカゴで、トニー賞を多数受賞したブロードウェイの人気ミュージカル、 ハミルトン を観ることができました!

ハミルトン?何それ?

というのが1〜2年前に私の住むオハイオ州コロンバスにブロードウェイのミュージカルが来るということで次女に観たいと言われ初めて聞いた時の私の反応です。

アメリカの独立戦争に関わった Alexandar Hamilton (アレグザンダー・ハミルトン)という人の話をミュージカルにしたものだということはわかったのですが、ハミルトンとは一体誰なのかということはまったくわかっていませんでした。

恥をさらすようですが10ドル紙幣の人がそのアレグザンダー・ハミルトンであることすら知らなかったんです!

hamilton bill

ブロードウェイのミュージカルのチケットは地方興業でも高いですしその時は間に合わなかったので娘には観せてあげることができなかったのですが今回、シカゴに行く機会があったので是非ということで娘二人と3人で観劇しました。

せっかく行くのだから、ということで私は事前に本を読み勉強をして行ったのですが本当に本を読んでいて良かったと思いました。あれがなかったら半分も楽しめなかったと思います。

ブロードウェイのミュージカルは私はおそらく20年くらい観ていなかったので本当に久しぶりでした。

今回のこのミュージカルで驚いたことが二つあります。(こんなことすら知らずに行ったのか?と言われてしまうかもしれませんが、ほとんどミュージカルの評判については無知で行きました。)

  1. 演じる役が白人であっても役者さんが白人でない。
  2. 音楽がヒップポップ、ラップである。

まず1番。これは私自身、現実が見えていない、先入観を持っていたんだなと思い知らされました。アメリカの独立戦争から建国の歴史を考える時、誰でも思い出すのはジョージ・ワシントンだと思います。革命を指揮した軍人かつ初代の大統領ですね。それからジョン・アダムス、トマス・ジェファーソンなど3代目までの大統領くらいは私も知っていましたが、当然皆白人です。ハミルトンも白人です。なので当然役者さんも白人だと私は思ってしまっていたんです!

しかし、このミュージカルでは違うんです!黒人やラテン系、アジア系の人たちが白人の役を演じるんですね。

アメリカ全体として白人がマイノリティになる日も近いと言われている現実を考えれば当然のことなんですが、私の頭の中には白人は白人が演じるんだろう、という前提があったのです。

そのことに感銘を受けていたらたまたまオンラインのニュースで読んだ記事の中に、ロンドンでいつかミュージカルで花を咲かせようと頑張っている日本人の方の記事があり、そこにも最近では白人の役に有色人種を使うことが頻繁に行われると書いてありました。トレンドというか、歌、踊り、演技などの能力をみて決めた場合にたまたま有色人種の人が適任であったということなんでしょう。しかし、その考えの斬新さに私は自分の考えが遅れていることを認識させられました。

2番目はこのミュージカルがヒップポップ、ラップの音楽を中心にしているということです。

ヒップポップやラップが今まで伝統的なブロードウェイのミュージカルに使われることはなかったので、これもまた斬新な試みです。

独立戦争という200年以上前の歴史的出来事が主題でありながらラップという現代の音楽を使い、それを当時奴隷として使われていた黒人やカリブの方たちの子孫である役者さんたちが演じる、という点でこのミュージカルは非常に珍しく、またそこが人気を博した一因でもあると思います。

また、 ハミルトン 自身、カリブのサンタクロス(St. Croix)という島の出身で移民です。このミュージカルを作ったリン・マヌエル・ミランダさん(Lin-Manuel Miranda)もプエルトリコからの移民の子供です。

ハミルトンの作品の中にも何度も移民(immigrants)と言う言葉が出てきます。この作品が最初に上演されたのは2015年のことなのでトランプ政権が成立する前のことで、ミランダさんはそのずっと前から構想を練って作品を作っていたのでアメリカという国は移民で作られたんだということを再認識させる意図がもともとあったかどうかはわかりませんが、不法移民排斥をうたい、特定の国や宗教の人を差別するとも思われる発言をする大統領が政権についている今、このミュージカルを多くの人に観ていただきアメリカ建国の歴史、趣旨を理解してもらうことは非常に意味があると思います。

そして、もう一つ、素晴らしいと思うのはラップの歌詞です。

ミランダさんはこの作品でピューリッツァー賞も受けていますが、うなづけます。

ラップ自体、私はよく口が回るなーと感心するのですが、歌詞も韻を踏んだり(rhymeといいます)、語呂合わせ(punといいます)を入れ込んであって私は何度も読んだり聞いたりしてみてやっと理解できた感じです。実は今もまだ勉強中です。

例えば3曲目に “My Shot” という歌があります。5分半ほどの長い曲なので歌詞を全部載せるのはやめておきますが、最初のところだけ載せますね。これで45秒ほどです。

I am not throwing away my shot
I am not throwing away my shot
Hey yo, I’m just like my country
I’m young, scrappy and hungry
And I’m not throwing away my shot


I’ma get a scholarship to King’s College
I prob’ly shouldn’t brag, but dag, I amaze and astonish
The problem is I got a lot of brains but no polish
I gotta holler just to be heard
With every word, I drop knowledge


I’m a diamond in the rough, a shiny piece of coal
Tryin’ to reach my goal my power of speech, unimpeachable
Only nineteen but my mind is older
These New York City streets get colder, I shoulder


Every burden, every disadvantage
I have learned to manage, I don’t have a gun to brandish
I walk these streets famished


The plan is to fan this spark into a flame
But damn, it’s getting dark, so let me spell out the name
I am the A-L-E-X-A-N-D-E-R we are meant to be

これだけ見ても格節に韻を踏む言葉が必ず入っていることがわかります。こういうことを2時間半ほどの作品の全部の歌に入れ、しかも意味を持たせ話が通じ、歴史に忠実に飽きないミュージカルにしていくわけですから至難の業だと思いませんか!?

そして、この “I am not throwing away my shot.”というのには複数意味があります。

Shot自体、ここにありますように当然銃撃の意味もありますし、注射、試みなどといった意味もありますがここでは機会(チャンス)という意味になります。

一般的な会話で例えば I’ll give it a shot.

と言えば、I’ll give it a try. と同じ意味で「やってみよう、試してみよう」ということです。

“throw away” は「捨てる、無駄にする」というような意味です。

“I am not throwing away my shot.” で ハミルトン は「(名声、成功、富、歴史に名を残すなどといった)機会を絶対に無駄にすることはないぞ=チャンスは逃さない」と言っています。

ハミルトンは元友人、そして最後にはライバルになってしまったアーロン・バーとの決闘で命を落とすことになるのですが、この決闘に関する意味もこの言葉にあり”throwing away a shot” は決闘の時に相手を撃たずに地面に向かって弾を撃つことをいいます。

作品中この “I am not throwing away my shot.” と言う言葉は何度も色々な場面で登場し、ハミルトンの野心的、積極的で飽くことなく成功を求める彼の性格を表していますが、最後のバーとの決闘では “I am NOT throwing away my shot.” ではなく、ハミルトンは空に向けてピストルを放ちます。(最初から撃つつもりはなかったと言われています。別の説ではバーが先に撃ったので反射的に発射したのだと言われていますが真相はわかりません。)

というような意味を二つ持たせる言葉を入れたり、とにかくハミルトンの伝記を読み歴史を知った上で一曲ずつじっくり読んで聞いてみると本当に奥の深い歌詞であることがよくわかります。

昔、大学生の時にシェイクスピアを勉強した時のことを思い出しました。

このリン・マヌエル・ミランダさん、天才的だと思います。

ということで今回このミュージカルを観たおかげで俄然、アメリカ建国について興味がわきました。

アメリカの独立宣言にうたわれている

Life, Liberty and the Pursuit of Happiness

という言葉はミュージカルにも何度も出てきますが、全ての人間が持つ権利として定められたもので日本語では「生命、自由および幸福追求」となります。これは日本国憲法13条に反映されています。

We hold these truths to be self evident that all men are created equal, ~

という表現も出てきますが、これも上記の文言と同じ独立宣言の冒頭の文章の中の言葉で有名です。全ての人は平等である、というアメリカ建国の理念をうたったものです。

ハミルトンは奴隷解放も強く主張していました。しかし、実際に奴隷解放が実現したのは1863年でアメリカ建国後80年ほども後のことになります。

当時奴隷であった人たちの子孫である役者さんが、当時の奴隷解放を論じる白人役を演じ、今のアメリカで白人も含めた色々な人の拍車喝采を得るというのは役者さんとしてどれだけ感慨深いことだろうと感じました。

こうして考えると大きな理想の元に建国されたアメリカという国で、今外国人の私が平和に幸せに暮らすことができているのは、多くの人の犠牲の上に成り立っているのだということが今までになく明白な事実として伝わってきました。

日本で平和な時代に成長することができたのも多くの日本の人たちの犠牲の上に成り立っていることは重々理解していましたが、第二次世界大戦後に設立された現日本国憲法もアメリカの影響を強く受けたものであることは言うまでもありませんので、間接的であってもアメリカ建国に関わった人たちの恩恵を受けていたということですね。

今までそんな風に考えたことはなかったので、そういう意味でも今回のミュージカルは私にとって非常に大きな意味を持つものとなりました。

一人で感銘を受けて書いていますが、皆様もニューヨークへ行く機会がありましたら是非本場のミュージカルを観てください。私はシカゴでしか観ていないのでニューヨークのブロードウェイのキャストとの違いはわかりませんが、シカゴのキャストは素晴らしかったと私は思います。色々なサイトを観てもシカゴはかなり絶賛されているので、ニューヨークでなくてもシカゴなら行ける人は是非シカゴでご鑑賞ください!

ニューヨークやシカゴは常設の劇場でやっていますが、全米ツアーもやっています。当然キャストは色々なので私はわかりませんが、どんなキャストであっても音楽、踊り、巧妙な話の進め方など必ずや楽しめると思います。

下記のリンクでお近くの都市で講演がないかみてみてくださいね。

https://hamiltonmusical.com/us-tour/tickets

そして絶対事前にハミルトンや建国の歴史について勉強していくことをお勧めします!

もし英語に興味があれば曲を一つずつ歌詞を読んで聞いてみると非常に勉強になると思います。ラップは私は口が回らないのですが、英語のリズム、アクセントなどを取得するために意味がわからなくとも合わせて歌ってみるだけでかなり口の動きがよくなるかと思います。それにしても息はいつ吸っているのかと思うほどです!

“Guns and Ships” という曲が第一幕の最後の方にあるのですが、この中のフランス人の Lafayette (ラファイエット)の歌詞が極端に速くて感動します!

最後に、通訳・翻訳をする者としてもしこれを日本語にするなら、と考えずにはいられませんでしたが、韻を踏んでいることもそうですしリズムを考えてもこれは日本語には絶対できないと思います。意味を伝えることはできますが、同じ音楽に合わせて意味も変えずに韻を踏んでというのは不可能です。こういう芸術は作品をそのままの言語で観賞するのが一番いいのですね。

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